目を開けたら

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自称悪魔である黒影との、何とも恥ずかしく最悪な情事後。 目を開けたら そこはRPGの世界でした。 ……。 決して別の話と擦り変わったとかじゃ無いから安心してください。 知らない方のために一応説明するとRPGっていうのは…いわゆるよく勇者が怪物を倒したり、宿屋の主人が大切な情報を握っていたりするロールプレイングゲームの事なんだけど。 つまり俺が今寝ている場所は、現代の日本からは一億光年程駆け離れたゲームにありそうな小さな村…の道端だった。 「…」 砂だらけになった服を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。 見回してみれば有るのは、如何にも煉瓦で造られた玩具の様な家屋や、時代錯誤な木製風車や井戸。 すみません。此処は一体何処ですか? 呆然としていると、不意に膝辺りに鈍い衝撃がぶつかってきた。 それに視線を落とせば、小さな男の子が今にも泣きそうな顔で俺を見上げる。 え?俺が悪いの? 「ぶ、ぶぇっ」 「ちょ、待て!泣くな!俺が悪いみたいに思われる!この子のお母さーん!」 大きな翡翠の瞳には、今にも零れ落ちそうな程に涙が溜まっている。一回でも瞬きをしてみれば確実に土石流の様に流れ出してしまうだろう。 その光景にアワアワと右往左往する青年て…完全に俺が泣かしちゃった的なシチュエーション出来上がってるに違いない。 徐々に嗚咽が大きくなる男の子を見ながら、俺まで泣きたい気分になってきてしまう。 すると、不意に背後から声を掛けられた。 「大丈夫かい?」 「へ?」 振り替えれば、そこには此れまた童話に出てきそうなエプロンを着けたおばさんが一人。 明らかに日本人顔では無い。クッキーを焼くのがとても上手そうな体型のご婦人だ。 「さっさと何処かへお行き!」 そのおばさんの叱咤する様な声は、俺にでは無く小さな男の子に向けられていた。 俺にぶつかったせいで、派手に転んで泥だらけな男の子にだ。 それに翌々見てみればこの男の子、服も身体も傷だらけでボロボロではないか。 「いや、でも。俺がこの子にぶつかったんで…」 「いいのさ、コイツは!ほら何時までも其処に居られると困るのよ!これでも持ってさっさと出ていきな!」 そう言っておばさんが投げ付けたのは、まだ熟れ切っていない黄色っぽく固い一つの林檎。 地面の石に当たって軽く皹の入った其を、男の子は乱暴に掴み上げて脱兎の如く走り去っていく。
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