川村靖子

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わたしは、夏の青虫のように、あなたのことを調べることに夢中になりました。 図書館や役所に通って、住所を突き止めたときには、思わず小踊りして喜びました。 だって、案外近くにいらしたんですもの。神様はまだ見捨てていなかったわ。 住所を頼り、あなたのお家を見つけて、ため息をつきました。 高級住宅街の立派なお宅です。 社長様ですもの、当たり前ですね。ずっと、中を伺っておりましたら、犬に吠えられました。 それからというもの、あなたのお家に通うのが楽しみになりました。 あまり頻繁に出掛けて、怪しまれてもいけません。わたしはそぐわない浮浪者です。月に一度ぐらいにしました。 あの犬は、一年後に死にましたね。わたしが毒を混ぜた餌をやっていたからです。河原で探せば毒キノコや毒草はあるのですよ。 そして15年。わたしは修一様をずっと、お慕い申しておりました。
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