渡部修一

5/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
川村靖子。 痩せぎすで、陰鬱な影の薄い女だった。そのうえ、斜視で左右の目の焦点がずれているために、見つめられると、こちらが透明人間にでもなったような、奇妙な感覚におそわれた。 川村が、何か言いたげな目を向けるたびに、その感覚に捕われ、それが私を無性に苛立たせた。 若い頃の私は、環境に恵まれプライドも高く、虚栄心にまみれ、手に入らないものなどないかの如く、振る舞っていた。 川村の目は、そんな裸の王様の私を見透かす目だった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!