川村靖子

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大学を卒業したあなたは、お父様の会社に迎え入れられ、その後のことは存じ上げません。 ただ風の便りに、ご結婚なさったことは、わたしの耳にも入って来ました。 わたしも卒業して、小さな会社のOLになって、いつしか、あなたのことも忘れてしまいました。 あなたがご結婚されて、少ししたころ、わたしも、会社の出入り業者の男に声を掛けられ、数回デートを重ねた後に女にされ、プロポーズを受けました。わたしは30歳になっていました。 器量のよくない、一人娘のわたしを心配していた両親は喜んでくれました。 でもやっと、女の幸福が来たと思った矢先に、わたしの両親は、事故で二人とも亡くなってしまいました。 遺産らしいものも、ほとんどないと知った主人は、顔色を変えました。そして、暴力を奮うようになったのです。 気の小さい主人は、仕事場では、いい人でした。でも、嫌なことがあると、そのはけ口をわたしに求めたのです。 暴力は日増しにエスカレートしました。味噌汁が熱いと言って、わたしに投げて、火傷をしたこともありました。 何の理由もないのに、殴る蹴るは当たり前になり、スーパーに買い物に行くにも、変装しなければならぬほど、痣が消えることはありませんでした。
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