とある少年の災難

2/8
89人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
. 半寮制の似非お坊っちゃん学校。 中・高一貫教育で半寮制と言えども、全校生徒の九割以上が寮に入っている。 ひとえに街まで車で一時間かかる偏狭の地のなせるワザ。 自称自宅通学者は丁度街から学園までの中間地点にあるプチ別荘地帯に暮らしている。 何でも寮の規律が合わないとか自由が欲しいとかナンとか… 似非お坊っちゃん達は消灯時間とか食事の時間帯などと時間に縛られるのが気に入らないらしい。 中にはもっと切実な事情により、退寮する者もいるがそれはほんの極一部の例外であり同情の余地はあるが… 俺からしたら、「は?規律が嫌なら学生辞めちまえ!自由が欲しいなら人間辞めて大気に還れ!」である。 だがここは見渡す限りの山、山、山。所により溜め池有りの環境で春先には新入生新教職員の遭難者続出。 マメ知識だが、我が学園には『山岳捜索救助部』と云うヘンテコな部が存在する。 その奇妙奇天烈な部活動の存在を知ったのは、実際に俺が関わり合いになった時だった。 自分がまさか本年度の遭難者第一号に認定されてしまっただなんて思ってもみなかった… 俺は森の仔リスに誘われて森林浴を楽しんでいただけだ。 断じて遭難なんて不名誉極まりない愚か者では無い! ただ、自分がこれから進むべく人生の方向性を見失っていただけだ!!! 少しばかり消灯時間を過ぎて、点呼の時に居なかっただけなのに… お陰で入学早々ついたあだ名が『一号』 校内を歩けば、 「一号、オハヨー!」「一号、ペットボトルと非常食はいつでもポッケに入れとけよ」「はい、この板チョコあげるから一号君元気出してね!」 なんて知らない奴に気遣われる始末。 その時手渡されたチョコは春の陽気と人の温情にトロットロにとろけていた。 そして……… ヘニャヘニャ板チョコを握り締めた俺の目から嬉しさとはまったく違う成分の何かが零れたのは言うまでも無い。 .
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!