とある少年の災難

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・ 「・・・・・・・・・なあ、一号よ」 「・・・・何だい三号?」 「現国の山田がホモって知ってた?」 「・・・知らねぇ。んなキモい情報はいりません!」 そろそろ梅雨入りかと思わせる鬱陶しい鉛色の空の下、肌に纏わりつく湿気と同じくらいにウザったらしく三号が俺に話しかけてきた。 三号とは、先週末に栄えある遭難者三人目に認定されたクラスメートである。 偶々同じクラスなだけで寮部屋が隣同士で教室の席順も前後しているだけの男だ。 断じてコイツは『友』なんかじゃない! 例え気軽にご飯を食べたりお喋りする奴がコイツだけだとしても、あの日、あの瞬間から俺達は赤の他人となった。 あの日とは、そう…コイツが三号になった日だ。 奴の不在に気付いた俺は胸騒ぎと共に寮管室に走った。 夕食の待ち合わせ時間になっても一向に現れない奴に携帯電話をかけまくり、腱鞘炎をも畏れずメールをガンガン打ちまくり、あらゆる手だてを試みた。 それでも何の音沙汰もないコイツ。最終手段として校内一斉放送で呼び出しをかける為、にやける口元を隠す為に唇を強く噛み締めて全速力で走った! 息も絶え絶えに寮の管理人に事情を話すと寮管は深刻な表情で、快く呼び出し放送に応じてくれた。有り難い! いや、正直なところ俺を形成している細胞という細胞が『ハレルヤ!』を熱唱していた!!! こんな身近に俺以外に辱めを受ける奴がいたなんて! 神様、有難うございます。 これで『一号』の影も多少は薄れる事でしょう! 不本意だがこの時ばかりは脳裏に浮かぶ奴のバカ面が少しばかり輝いて見えた。 俺が一人孤独に脳内ハレルヤ大合唱の中、異変に気づいて集まりだした学生たちの中央に一筋の道が真っ直ぐこちらに出来ていた。 寮管室に飛び込んで10分弱… 管理人に館内放送を入れて貰っている間も俺は心配する友人Aを見事に演じきったのだが……… その花道を威風堂々と歩く一個団体に俺は気を失いそうになってしまった。 ザッ・ザッ・ザッ・・・・ ーーーー来るの、早くね? 蛍光ピンクの揃いのツナギに強力ライト付きの黄色いヘルメットは遭難者でさえ逃げ出したくなるハイセンスな装いだ。 肩には緑色のナイロンザイルを幾重にも巻き込んだ物を担ぎ、重々しい黒い登山靴。腰に装備したトランシーバー…は、ちょっと格好いいなと思ったのは内緒にしといて? .
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