春が夏になって

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「何じゃあ!男やないけ」 「ま、んな所」 「金時の性癖はしゃあないの」 テンパり始めている生徒2人を開店前の店内に放り投げ、自分は裏へ回っていた。 さっきの電話の主、坂本 辰馬が着くずしたスーツ姿でロッカーにもたれながらニヤニヤ笑う。 髪の上に押し上げられたグラサンが、何だか80年代を匂わせるんだが。 「んなのじゃねーよ、勘違いすんなアホ、あれ俺の生徒」 「は?未成年連れ込んでこの店潰すきやなか」 「いーじゃん表に居られるより、着いてこられてこっちも迷惑してんのよ」 「金時も大変じゃー!ま、怒られるのは他やけぇ俺はどうでも良い」 ヒラヒラと手を振って鼻で笑う辰馬。 店の前に俺の心配は来ないのね。 此処が何処でなんてもう分かっていると思うが、新宿歌舞伎町。 ネオン街に巣くう一つの埋もれたホストクラブだった。 「生徒に手ぇだすくらいなら俺が相手しようか?」 「うっせ、こんな時だけ標準語使うな」 掠めた遊びのようなキスに、俺達はケラケラ笑う。 どこからなんて言わない、これが今の俺達です。
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