プロローグ

4/6
前へ
/12ページ
次へ
「段ボール箱くらい、ちゃんと処理しろよな」  空き箱を蹴り飛ばし、歩を進める。愚痴を零すが、雨と共にそれは落ちていった。  こんな所で止まっていては、風邪で寝込む道筋を辿るだけ。高峰宗矢は自宅へと駆け出した。  ……脳裏の隅の隅で、思考の欠片が疼いている。  もし、もしも、もしもの話。  偶然見付けた段ボール箱。その中には偶然一人では決して生き長らえない動物がいて、偶然宗矢が見付けてしまったら。  犬とか。猫とか。猫とか。犬とか。  その時、どのような行動を取っただろうか。  何も動物の話だけではない。  虚弱で脆弱で惰弱で、弱り切った何かを偶然眼にしたら。手で取れる場所にあったら。  彼は、どうするのだろうか。 「……寒」  服をすり抜けて入ってきた冷えが身体を震わす。お蔭で欠片は消え、答えには至らなかった。  雨が降る。酷い雨だ。  その雨が余計な思考を洗い落とし、宗矢を正常にする。 「……ったく。雨のせいで変な考えでも浮かんじまったか?」  宗矢の独り言は帰路に着くまで続いた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加