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「段ボール箱くらい、ちゃんと処理しろよな」
空き箱を蹴り飛ばし、歩を進める。愚痴を零すが、雨と共にそれは落ちていった。
こんな所で止まっていては、風邪で寝込む道筋を辿るだけ。高峰宗矢は自宅へと駆け出した。
……脳裏の隅の隅で、思考の欠片が疼いている。
もし、もしも、もしもの話。
偶然見付けた段ボール箱。その中には偶然一人では決して生き長らえない動物がいて、偶然宗矢が見付けてしまったら。
犬とか。猫とか。猫とか。犬とか。
その時、どのような行動を取っただろうか。
何も動物の話だけではない。
虚弱で脆弱で惰弱で、弱り切った何かを偶然眼にしたら。手で取れる場所にあったら。
彼は、どうするのだろうか。
「……寒」
服をすり抜けて入ってきた冷えが身体を震わす。お蔭で欠片は消え、答えには至らなかった。
雨が降る。酷い雨だ。
その雨が余計な思考を洗い落とし、宗矢を正常にする。
「……ったく。雨のせいで変な考えでも浮かんじまったか?」
宗矢の独り言は帰路に着くまで続いた。
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