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それから、自宅に到着したのは十分後の事。
全身は嫌と言う程のずぶ濡れ。間違いなくずぶ濡れ。誰がどう見たってずぶ濡れ。見るも無惨なずぶ濡れ。もう清々しい程のずぶ濡れ。
梅雨の季節には似合う雨だった。冬の気温より遥かにマシなのだが、濡れた身体が体温を奪い手足の先が微弱に震えてしまう。
震えながらポケットから鍵を探し、捩じ込むように鍵穴へ差し込む。寒さに震える指のせいで、上手く開かない玄関の扉に盛大に溜め息を吐いた。
「……ツイテねぇよ、本当に。まさかお天気お姉さんが嘘をつくなんてなぁ」
ポツリ、と呟く。
正確にはお天気お姉さんは、機械で出た結果を告げる人であって、天気を予報している人ではない。
頭では分かっているのだが、分かっていない。皮膚に張り付く濡れた服が気持ち悪すぎて上手く思考が追い付いていないのだ。
気分は最悪。拭う事の出来ない悪寒。身体が温もりを求めている。
少しでも温たくなるために両腕で身体を抱き擦る。その際にくしゃみを一つ。鼻水が間抜けに垂れた。
「と、取り敢えず風呂だ……。早く家に入らねぇと」
垂れる鼻水が振り子のように揺れながら、漸く開いた扉に身を投げ入れると―――、
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