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最悪だ。
至って簡単に、簡潔に、寛大に、最悪だ。
腹部から響いてくる鈍痛に顔を歪めながら、この世に愚痴る。
何故自分がこのような目に合わないといけないのか。何故腹が痛いのか。何故不法侵入者がいるのか。
濡れた頭や体をタオルで拭き、四角い卓袱台で挟みながら宗矢は混乱の権化を見やる。
「…………ん? なあに?」
どうやら当の本人は先程の件は無かった事になっているらしい。何処か上の空で、見えない蝶でも見ているかのように視線が揺れている。
どうせなら、と溜め息一つで宗矢は思う。
―――小動物を拾ってくる方がマシだな。
「……んで、そちらのお嬢さんは一体どちらのお人で? 出来れば何故家に入れたのかも含めて、事細かに訊きたいのですが」
「ん。わたしは、アラヤって名前なんだ。貴方は?」
「質問を無視ですか! そして質問返しですかい!」
柔和な笑みを浮かべたアラヤ。何だコイツは、人の話をまるで訊いていない。
「つーかぁ……あらや。あらや、アラヤ? それ、名前か?」
アラヤ、と名乗る少女に聞き返す。随分風変わりな名前だな、と思ってしまう。
服装から見てもそこらの家装が奇抜で異質だ。どこかのお嬢様かお姫様か。
どちらにせよ、育ちが良いのは当たりだろう。
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