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一体どうしたというのか。
須山が恐ろしいまでの無表情でアタシのことをみつめていた。その視線はまるでこの世のものではない何かを前にしたかのようで。
「おい、どうしたってんだよ須山。お前らしくもねぇ。クソモヤシがアタシの弟になる……これってそんなにおかしいことか?」
「お前それ本気で言ってんの?」
須山がジト目をこちらに向けながら何か言いたげに口を開こうとしたが……意外なことにその口は閉ざされた。
代わりに出てきたのは、軽い嘆息。
「……いや、まぁ――」
そしてその顔には、手のかかる生徒を見守るかのような教師の苦笑が浮かんでいた。
「――そういうのもいいのかもな」
「須山?」
「あー、はいはい分かった分かった。この後"弟"と遊ぶ約束があるんだろ? だったらさっさと行っちまえ」
ただし会計はお前が済ましてけよー、と軽快に笑いながら須山はヒラヒラと手を振ってくる。
確かに須山の言うとおり、アタシはこの後クソモヤシと街へ買い物に出かける予定だ。時間的にもそろそろ出発したいところなのだが……なんだかこうもあっさり別れを切り出されるとどうにも後味が悪いな。
須山が何を言おうとしていたのかも気になるし……うぅむ。どうしたものか。
「茜お姉ちゃん。須山先生もこう言ってるし、そろそろ行きましょうよ」
「おう、そうだな。行くか」
うっし。
こりゃ迷うまでもねーわ。
弟がそう言うなら行くっきゃねーわ。今すぐ出発するっきゃねーわ。
「じゃ、お言葉に甘えてそろそろ行くわ、須山。ここは払っておいてやるから今度何か奢れよ」
「気が向いたらな」
「それから、あんまり伝わってなかったみたいだから弟デーについては日を改めてじっくり教えてやる」
「それはおそらく一生涯気が向くことはないだろうからいらん世話を回すな」
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