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「………………は?」
必要以上にたっぷりと間をあけて、須山が気の抜けた一言と共に首を傾げる。
その時だった。
「――茜お姉ちゃぁぁぁん!お待たせぇぇぇ!」
"我が弟"が大音声と共にファミレスに入店してきたのは。
入口の方へと目を向けてみると、そこには確かに、見慣れたツンツンとした黒髪に人懐っこい笑みを浮かべたアイツの姿が。
「おー、遅かったじゃねぇかクソモヤシ。待ちくたびれたぜ。……ってオイ、まさか来る途中何かあったんじゃねぇよな? 大丈夫か? 怪我とかしてねぇだろうなぶっ殺すぞコラ」
「大丈夫です大丈夫です。ちょっと電車が遅れちゃってて……すみません」
あははと苦笑いしながら、クソモヤシはアタシのもとまで歩み寄ってきた。
その額にはうっすら汗が浮かんでおり、おそらく駅からここまで全力で走ってきたのだろう。
電車が遅れたのはテメェのせいじゃないだろうに。相変わらず律儀な奴だ。
「……ったく」
小さく舌打ちをして、アタシはクソモヤシを自身の隣に手招きする。
「まぁ、とりあえずまずは座れ。ここだ。早くしろ。そんでジュースでも飲め。それとも何か食うか? 腹減ってるなら遠慮するなよ。ほらメニューはこれな。つーか汗かいてるけどもしかして暑いか? 店員呼んで空調の温度下げさせるか? というか汗ふいてやるから動くんじゃねぇぞ。ん、おい、この季節限定のデラックスアイスパフェとか美味そうだぞ、注文するか? オイそんな端っこに座ってねぇで、お前はもっとこっちに詰めて――――」
「いやいやいやいや待て待て待て待て」
アタシがクソモヤシと他愛もないやり取りをしていると、既に空気となっていた須山が何やら死んだ魚の目をしながらツッコミを入れてきた。
「なんだ、須山」
「なんだじゃねぇよ。お前こそなんなんだよ」
ハァと溜息のようなものが須山の口から漏れる。
「私の記憶違いじゃなければ、お前と兎上の関係性は何というかもっとこう……こんなんじゃなかった気がするんだが」
「おいおい。それに関しては既に言った筈だぞ須山」
「あん?」
「今日は"弟デー"だってな」
「何言ってんだお前」
「ちなみに弟デーとは、2週間に1回ある、クソモヤシがアタシの弟になる日のことだ」
「ホント何言ってんだお前」
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