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弟デーの素晴らしさが理解できないとは、なんて可哀想な奴なんだ須山。
これは是が非でも、お前に弟や妹という存在の素晴らしさを説いてやりたくなったぜ。
――なんてことを考えながら、ファミレスの出口に向かって歩き出す。
すると、
「――おーい、茜。最後に一言だけいいか?」
ふいに須山に呼び止められた。
「あん?」
何事かと思い振り返ってみて――驚く。
あいつは笑っていた。
さっきまで見せていた、苦笑いや呆れた笑いとは違う。本当に心から嬉しそうな笑いを。
「"その立ち位置も悪くない"と思うぜ、須山先生的にはな」
は?
なんだそれ?
どういうことだ?
言葉の意味を聞き返す前に、残念ながらファミレスの自動ドアは閉じられてしまった。
なんだ?
須山は、最後の最後で何を言いたかったんだ?
立ち位置?
アタシの?
だとしたら、何の立ち位置だ?
「……茜さん?」
「ん? あ、あぁ悪ぃ。何でもねぇよ」
先に店外に出ていたクソモヤシに声をかけられ、正気に戻る。
ったく須山の奴、最後の最後で意味深なこと言いやがって。アタシがそういうの苦手なの知ってんだろうが。おかげで弟に余計な心配をかけちまったじゃねぇか。
いかんな、切り替えよう。
今日はせっかくの弟デーなんだから。
「うっし、じゃあとりあえず隣町に新しくできたショッピングモールに向かうか」
「ですね。あそこ人気みたいですから、少し混雑してるかもしれませんけど」
「そうか。ならくれぐれも離れんじゃねぇーぞ、弟」
「見失わないで下さいね、茜お姉ちゃん」
わははと2人して笑う。
クソモヤシとこんな取り留めもないやり取りが出来るようになったのも、コイツと本音でぶつかりあったおかげなのかもしれない。
そのことに妙なむず痒さと嬉しさを感じながらも、アタシはクソモヤシと一緒に足を進める。
並んで――歩く。
二人で。
「あ」
なんだ。
そういうことかよ、須山。
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