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―――思えば。
アタシはずっと、コイツのことを追い掛け回してきた。だからこそ、アタシがこれまで見ていたのはコイツの背中だけだった。
しかしそれが高津茜という女と兎上駆という男の関係性を顕著に表すものでもあったわけだし、そのことに疑問なんて欠片も抱いちゃいなかった。
しかし、今はどうだろうか。
アタシとコイツはこうして隣にいる。
隣り合わせで、肩を並べて歩いている。
アタシの"立ち位置"は、コイツの後ろから隣に変化している。
捕まえて、捉えて、ぶっ殺してやろうとまで思っていたあの背中は、もう見えない。
その代わりに、以前までは見えなかったコイツの横顔がよく見えるようになってしまった。
追う者と追われる者の関係だったアタシ達のは、いつの間にか対等になっていた。
遠く離れていた互いの距離は、いつのまにかこんなに近づいてしまっていたのか。こんなにも自然と追いついてしまっていたのか。
「……そりゃ須山も感心するわけだ」
当の本人であるアタシでさえ、この変化を自覚できたんだ。
客観的にアタシ達の関係を見ていた第三者には、まさに驚天動地の変化だったのだろう。
しかし。
須山はさっき、その上でハッキリと言ってくれた。
『悪くない』と言ってくれたのだ。
「……ったく、アイツは」
「? どうかしました、茜さん?」
「なんでもねーよ」
照れくささを苦笑で誤魔化しながら、隣を歩くクソモヤシの頭を乱雑に撫でまわす。
どんなに拳を振りかぶっても掠りもしなかったのにな。今ではこんなにも簡単に触れられる。
笑えてくるぜ、まったく。
これもまた、少し前までは考えられなかった光景だろうに。
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