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「……え?」
「このまま、高津茜に好き勝手言わせておいてもよろしいのですか? お嬢様は、それで悔しくはないのですか? 黙っていられるのですか?」
「……それ、は……」
「見返してやりましょう。外の世界を見て、勉学以外のことを学んで、見て、知って、感じて……薄っぺらだと称された人生に決別をして、それからもう一度、お嬢様の選んだ道が正しかったことを、奴に証明してみませんか?」
「…………」
「不安になることはありません。貴方様なら、きっとできます」
だって、と短く呟き……東堂は再び主の肩を抱き寄せた。
小さく、弱く、今にも壊れてしまうそうな……少女らしい主の肩を。
「貴方様は……私の誇るべき主なのですから」
東堂のその言葉に、わずかに主の肩が震える。
しかししばらくすると……彼女は小さく首を縦に振った。
会社を継ぐことに直向だった主が、初めて、外の世界を見てみたいと自己を主張した。
東堂には、それだけで十分だった。
「承知致しました」
東堂は、立ち上がる。
立ち上がって、大きく深呼吸。気持ちを入れ替え、気持ちを切り替えるために。
未だに顔を上げない主の頭を一度だけ撫で、そして東堂は、部屋を飛び出した。
広い廊下を走り、階段を飛び降りるように下り……そして、玄関付近で、見つけた。
「高津茜ッ!」
叫ぶ。
東堂は、喉を引き裂くように、大声でその名を呼ぶ。
「……あ?」
赤い髪をふわりと浮かせ、心底気だるそうに振り向いた高津茜に、東堂は全力で駆け寄った。
駆け寄って、そのまま胸倉を掴み上げる。
そして、真っ直ぐに睨みつけながら、東堂は怒鳴った。凄惨に。それこそ、当たり前のように。
「私の、命よりも大切なお嬢様を貴様に預けるッ!」
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