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沈黙が、この場を支配すること数秒。永遠にも感じる長い長い沈黙の後、やがて、
「……いや、つーか、馬鹿だろお前等」
高津茜は、東堂と主を交互に見据えながら、嘆息。
「主従揃って、言うこと成すこと無茶苦茶の矛盾だらけじゃねぇか。意味が分からん。アタシのこと散々言ってるけどよぉ、テメェ等の方が異常だし、外れてるし、イカれてるし、狂ってやがるな」
「…………」
「だが、」
次の瞬間。
主の笑みに呼応するかのように、笑った。
高津茜も――心底楽しそうに笑ってみせた。
「――そういう馬鹿は、嫌いじゃない」
「……え?」
「その馬鹿さ加減が気に入った、って言ってんだ」
高津茜はそのまま笑いながら、階段の上にいる主を手招きした。
「来いよ」
「?」
「上等だ。いいだろう。このアタシが、責任を持って、お前に外の世界を教えてやる。お前のクソつまらねぇ人生に、少しばかり刺激を与えてやるよ」
「…………」
「ん? どうした? 来ねぇのか?」
若干放心気味の主に対して、首を傾げる高津茜。
それでも、まだ手招きを続けている姿を見る限り……おそらく主の返答の予想はついているに違いない。
そして、主は案の定、ゆっくりと階段を降りながら口を開く。
「――まったく、仕方ないわね。それじゃあ、お言葉に甘えてあげることにするわ、赤いお姉さん」
「くははは。つくづく生意気な奴だな、お前って。つーかそれより、赤いお姉さんってのは止めろ。アタシの名前は、高津茜だ」
「そう。じゃあ、これからよろしくね、茜さん」
「おう。それと、先に言っておくが、雪血華はそんなに甘くねぇからな? 覚悟しろよ?」
「雪血華? 何かしら、それは?」
「あ? お前がこれから入る暴走族に決まってるだろうが。アタシは、その族の総長やってるわけだし」
「……初回からずいぶんとハードなのね。外の世界ってのは」
「後悔したか?」
「まさか。私は切り替えの早い女なの」
階段を下り終え、高津茜の真正面に立った主は―――意味深な笑みのまま続ける。
「もう既に、数分前のつまらない自分とは決別したわ。自分の中で、自分の力で。静かにこっそりと」
「……っか。生意気言いやがって」
お互いに笑いながら、高津茜は主の頭に手を乗せた。
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