序章

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時々,自分以外の誰かになれたらと思うことがある。 自分が自分でなかったら,あの人は死ななかっただろうとか。 自分が自分でなかったら,あの人は幸せだっただろうとか……。 「貴方が貴方でなかったら,幸せには成り得なかった人もいます」 いつか直江が言ってくれた言葉。 言いながら,本当はそれも自分勝手な言い分だと直江は笑ったけど,その時少しだけ,救われた気がした。 自分が自分でなかったら,いまここで感じる幸福は,経験しようもないものだったのだと思ったら,自分が自分であることが,今たまらなく愛しい。 誰かがここに在ることは,それだけで奇跡なのだということ。 誰かと誰かが出会うことは,その奇跡の延長なのだということ。 それを教えてくれたのは……。
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