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振り絞るような大きな声で
知也は我に返ったように動きを止めた。
頭上からは忙しく鳴く蝉の声と
足元からは奏でるように鳴く虫の声だけが響き
長く感じられた沈黙の後
うつむいていた知也が口を開いた。
「…なんで俺じゃないの?
初めての気持ちだったんだ。俺、どうしたらいいか……
ごめん。なっち……」
浴衣のえりぐりを少し引き寄せてくれた知也は背中を向けると
もう一度「ごめんね」と行って走り去ってしまった。
深呼吸をして知也が去った方向へノロノロと歩いて行くと
元の遊歩道に出た。
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