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「遅くなって…ごめん、な。」
村外れの簡素な柵で区切られた空間。
その中にはいくつもの帽子やら古びた杖やらが地面から生えてている。
金髪に尻尾の生えた少年はその中の一つにそっと触れた。
「ジタン…」
背後の黒髪の少女―ガーネットに名を呼ばれても、ジタンは振り返らない。しかし、ガーネットは気にかけることなく続ける。
「彼は…ずっとあなたを待っていたわ」
攻めている風ではなく非難している様でもない。けれどもしっかりとしたその声音に、ジタンは独りにして欲しい、と返した。
そこは墓場だった。
「なぁ、ビビ。アイツさ、最期…笑ってたんだ」
ポツリ。
返事を返さない墓に言葉を投げかける。
それは墓の主の最期を看取る事が出来なかったことに対する懺悔に近かった。
イーファの木が暴走したあの時、ジタンはクジャを助けに行った。瀕死の重傷を負いながらもクジャと共に脱出した後は、兄の命尽きるまでその傍らに付き添い続けた。
その間に流れてしまった一年という時間。
「俺に『ありがとう』なんて柄にもなくお礼なんか言ってさ…」
他人からの愛情に餓え、自分しか愛する事を知らなかったクジャが残した最初で最後の感謝の言葉。
その心は救われていたのだろうか。
「ホントっ…!最後の最期にっ…あん…な…っ!」
くしゃ、とジタンの顔が歪んだ。
自分はビビが自らの寿命について悩む姿も、クジャが後少しの命であるが故に暴走したことも見知って、分かっていたのに。
いつかこうなると覚悟だってしていた筈なのに。
それでも。
もっとビビと沢山の場所を旅したかった。
もっとクジャと兄弟として解り合いたかった。
今となってば最早それは叶う事はない願い。
2人の声を聞くことも何気ない会話を交わす事も、もう永劫に無いのだ。
何故、命はこんなにも尊く、儚いのだろうか。
その時、一陣の風が吹いた。
―――わすれないで。
不意に聴こえた懐かしいあの声。濡れた頬を撫でるように去っていく。
脳裏に浮かぶのは、幸せそうに微笑む黒魔導士の少年と自分に礼を告げた時の兄の安らかな表情。追憶の中の2人は今にも自分の名を呼びそうだ。こんなにも鮮明に覚えている。
思い出せる。
「…忘れるもんか。絶対にな」
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