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背後からの白刃を避け、掴んだ手をあらぬ方向にへし折り、まず一人を地に沈める。白刃は、小型のナイフだった。
次いで鉄パイプで殴りかかってくる二人は、足を払いのけ、地面に倒れたところで追撃の突きをみまう。
最後の死闘が始まり既に一分が経過していた。が、イリスは向かってくる追手を事も無げに倒していく。倒され地に蹲る追手は、余さず昏倒しており、少なくともあと二時間は目覚めないだろう。
やはり疲弊していても最強の肉体を受け継いでいるからか、イリスはこの窮地においてーーー。
〔くっ………ぁ…………息が……苦し……〕
ーーー当然、余裕綽々というわけではなかった。
疲弊しきっている今の状態では、素人の一撃を避けるのにさえ、文字通り死力を尽くさねば到底なし得ないのだ。
心臓はさっきからすぐにでも休止することを要求し続け、骨という骨は軋み筋肉という筋肉は悲鳴をあげている。しかしそれでも、イリスは座り込むようなことだけはしなかった。
疲労に震える足で、何とか立っている状態を維持し続け、常に周囲を警戒していなければならないイリスにとって、極めて不利な戦局であるといえた。
それでも、イリスは退かない。逃げない。屈さない。
だが追っ手の第二波が来たところで、イリスは今度こそ本当の窮地に立たされることになる。
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