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それだけは絶対に阻止しなければならない。
もう、ここで死んでしまってもいい。自分がここで死んでしまってでも、追っ手の波を食い止めなければと。
決死の覚悟で立ち上がろうとする勇猛な彼女の背中に、ここぞとばかりに襲いかかる追っ手の群れ。
その波を、力ずくで薙ぎ払った。押し寄せる殺意の波しぶきを、気力だけで打ち払った。
それでも殺さず、かといって起き上がることができない一撃を繰り出しつつ、イリスは自分に群がる追っ手を倒し続けた。
───死屍累々。とまではいかないが、イリスの足元には彼女に挑んで呆気なく昏倒させられた男達が地に伏せっている。
「はっ───は───」
無酸素運動どころの話ではない。
イリスの呼吸は既に停止寸前までだった。身体中が酸素を欲し、筋肉という筋肉は痙攣しているかのように震えている。
だが、彼女とて数多の死線をくぐり抜けてきた猛者───の全てを受け継いだ女である。外傷はともかく、疲弊した身体を落ち着かせることくらい、三秒間深呼吸をすれば事足りる。
何のことはない。鼻から深く息を吸って、ゆっくりと口からはきだすだけ。
そうして息を吸い込もうとしたところで───。
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