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虚無の空間に、一つの意味が生まれた。自分の名前はイリス。そしてもう一つ、わかったことがある。声の主は、どうやら自 のことをよく知っているらしい。
もっと詳しく自分のことを知りたい。この声の主ならば、イリスという自分の名前以外にも、自分のことを知っているに違いない。
それだけではない。もしこの声の主と自分が親しいのならば、もっと一緒にいたいとイリスは切に願った。
そうして声の主を捜そうと手を伸ばし辺りを探り始めた時、唐突に、白い世界は収縮し、朝から夜に変わるように、また暗闇へと瞬時に変化した。
そういしてまたもや、イリスの心情は虚無へと戻ってしまう。今見ていたものは何だったのか、陽炎のような夢を、見ていたように感じ、そのことを不思議とも何とも思わない自分を、イリスはつくづく嫌に感じるのだった。
だがうっすらと、彼女の脳裏に浮かぶものがある。それはぼんやりと、そしてゆっくりと、彼女の記憶へと戻っていく。
イリス。それが自分の名前。だが名前がある以上、名前をつけてくれた名付け親がいることは間違いない。だが、その名付け親のことを、イリスは思い出せない。
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