最終章第十五話

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そういえば、あの声の主は、少年だったはずだと、不意におぼろげな記憶が物語る。 今思い出せることといえば、それだけだ。けれども、その二つは結び付くのではないだろうか。すなわち、声の主である少年が名付け親である可能性。 ならば、会って一言、お礼を言わなければ失礼というものだろう。 〔そうだ。お礼……お礼を……〕 そこではたと気付く。 〔 お礼……どうして…………?〕 ガラスにヒビが入るように、非合理性はイリスの思考に少しずつ歪みを生じさせていく。 〔私が……彼に……お礼……?…………………………何のために……?〕 どうして自分はお礼を言わなければならないのか。まだよく思い出せそうもない少年などのために。 何のために?何の利益があって?理由や原因のわからないお礼などただの社交辞令だ。口に出すほどのものであるとは思えない。故に、言う必要もない。 そもそも自分が彼に何をしてもらったかさえ思い出せないのだ。 ならば、その少年に会う必要も、礼を言う義理なども一切、自分は持ち合わせていない。
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