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───それは、しとしとと嫌な雨の降る日のこと。
一匹の仔猫がうっかり道路の溝にはまってしまい、雨で水の流れが速くなっている排水口に流されそうになっている。
そんな時だった。
小学校の帰り道、その少年は、嫌な感じの雨を避けるため、黄色一色の傘をさしていた。
階段を上り、家の近くの道路に出る。後を振り向くと、田舎町を一望できる。
こんな雨の中、見慣れた町を眺めても何の面白みもないのだが……。
そこで少年は微かな猫の鳴き声を聞く。
既に家に帰るために道路の反対側へと渡っていた少年は、辺りを見渡すと───。
───いた。
道路の向こう側。
さっき上ってきた階段側の道路を五メートルほど右に行った所にある排水口。
雨で増加した溝の濁流が、淵につかまった子猫の自由を徐々に奪っていく。
流されれば子猫は排水口に落ち、溺死してしまう。
少年は駆けた。
持っていた傘を投げ捨て、濡れるのも躊躇わず、子猫を救うためにただ一心で。
子猫まであと少し。
道路を渡り終えるあと一歩というところで。
少年の横から来た大きなトラックが、少年の身体に接触した。
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