『小助、いざ参る。』

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しばらくすると、旦那様に許可をもらったのか椿が戻って来た。     「小助、お父様がいいと言ってくれたわ」     椿は草履を履き、さぁ行きましょう、と外に出る。 続いて小助も外に出て、日傘をさした。   屋敷の側には、大きくもなく小さくもない川が流れていて、川の側には桜の木が等間隔で並んでいる。 その桜の木の下に腰掛けが置いてあり、そこに座りお菓子を食べながら話をするのが、椿の散歩の楽しみだった。 あまり外には出られない椿と違い、使用人の小助はよく町に出るため、椿は小助の話を聞くのがすきだった。     「ふうん、それで小町ちゃんはちゃんと帰れたの?」   「えぇ、まぁ、俺が家に送ってやったんですけどね…」   ハハッ、と力なく笑う。 今日は、この間迷子になった小さな女の子を家に送ってあげた話をした。 椿は、優しいわね。と微笑み空を見上げた。 小助は、首を横に振ってたじろぐ。     「椿様は?何かありましたか?」     小助を散歩に呼び出すのはいつのも事だが、今日は様子が変だった。 どことなく、落ち込んでるような…     「ううん、何もないわ。いつもと変わらないもの。」   そうですか?と、小助も空を見上げる。 爽やかな風が、2人を包んだ。空はどこまでも広く、青い。    「さぁ、帰りましょ。」   椿は、立ち上がって歩き出す。小助はあわてて日傘を持ち追いかけた。 川に架かる橋の上で、見慣れない若い男とすれ違った。 一瞬目が合ったけど、すぐにそらした。 (…見ない顔だな。隣り町のやつかな…) 整った顔、物腰からして、身分が良さそうな感じだ。 突然、椿が走りだした。 小助も急いで後を追う。   「えっ、椿様ッ!?」     小助が読んだその名前に、男が振り向いた。   「………。」   男がこっちを見ているのを小助は知らなかった。
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