89人が本棚に入れています
本棚に追加
ゴール前にはキーパーがどっしりと構えていた。味方フォワードは、ゴールすると見せかけて翔にパス。しかし、そのパスは高すぎた。
翔は一旦バイクを引くと、ドームの壁目掛け走り出した。加速するバイクに、観客は激突すると思い皆目を閉じた。
しかし、翔のバイクは壁スレスレの所で、直角に壁伝いに登り始めた。
バイクが重力に引き寄せられるように、壁から離れる。無重力状態のように、華麗に宙を舞う翔のバイク。
ボールに近づいた翔は、その右足でボールを思い切り蹴り飛ばした。
宙に舞うバイクにあっけを取られたキーパーは、何も出来ずにその球をゴールネットに許してしまった。
そのあまりにもアクロバティックな動きを見て、唖然とする観客たち。辺りには次第に、拍手と歓声が鳴り響くようになった。
数万人が寄るド-ム内に、点が入った事を示すホイッスルが鳴り響いた。
その観客席に、試合を観戦する軍服姿の人物が2人。1人は年の功30歳ぐらい、もう一人は20~25ぐらいの若い女性の軍人だ。その制服から見て、空軍将校のようだ。
男性将校が、その隣に座る女性に話しかける。
「あの黒いチームの7番…、どこか似てないか?機体を駆る姿など奴そっくりじゃないか」
「奴と言いますと?」
「奴だよ…奴…あの狐さ」
「名取少佐の事ですか?」
「そうだ…。あの動きの感じ…似てると思わないか?」
「そうですね。何となく…」
再びホイッスルと共に、試合が再開される。
今度は相手チームのボールからだ。相手のフォワードが、意気揚々にボールを持って突進してくる。
ゴール前を固める味方チーム。翔は、相手のボールを取ろうとそのフォワ-ド陣に突進して行く。
しかし、相手はフェイントをかまし翔を上手く避けた。翔はすかさず反転し、相手を追う。
しかし、ゴール前を固められた相手フォワードはシュートが決められない。仕方なくゴール前を素通りする連中を、翔のバイクが追う。
グングンと加速して行くバイク…。
相手は後ろを警戒しながら走っていたが、追いつかれそうなのでパスを出そうとした。その瞬間、相手フォワ-ドは驚愕の表情を見せた。
翔がパスコースを遮るように、目の前に突然現れたのだ。
唖然とするフォワードをよそに、翔はボールを奪い急ブレーキを踏んだ。
最初のコメントを投稿しよう!