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「てめえ! 調子乗ってんじゃねえぞっ!」
「……はい?」
その瞬間は唐突に訪れた。たしかな怒りを孕(はら)んだ声が耳に届き、物思いに耽けていたサラは即座に現実に引き戻される。一体何事かと瞠目し、いま聞いた声の発信源を探そうと周囲に目をやった。
見れば、サラのいる地点からだいぶ離れた位置――ちょうど広場のようになっている場所に、なにやら人だかりができていた。円を描くような形をしていることから、多分に先ほどの声の主はあの中心にいると推測される。
(……もしかして)
いましがた聞いた、ただならぬ様子の声を思い出す。そこに危惧を覚えたサラは小走りでその集団に近寄った。
別段彼女が野次馬精神に旺盛だというわけではない。ただ、彼女は実直すぎるほどに生真面目で正義感が強かった。
(まだそうだと決まったわけではありません。……ありませんが)
杞憂であればいいとは思う。だが、魔法行使の才を持つエリートたちが集う学校だけに毎年懸案されているという〝とある話〟を知っていたサラは、他人事と放って置くことができなかった。
何事もなくあのような怒声が発せられるとは想像しづらいのもまた事実であり、つまりはなにかしらの問題があの場所で起きているということは疑う余地がないように思えた。
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