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ただ、そうやって意気込んではみたものの、具体的になにか上手い突破法があるわけでもなく、結局のところ彼女に残されたのは力技の一択のみだった。すなわち強行突破。
「……よーし」
意を決したように小さく呟き、準備運動とばかりに深く息を吸い込む。数回に及ぶ深呼吸を終え、そして最初の一歩を踏み出した。
目指すはもちろん――騒動の中心。
「す、すいません。通してください!」
控え目に声を張り上げつつ、いまにも押し潰されそうな密集地帯をひたすら進んでいく。小さく身を屈めて人の間隙(かんげき)を縫うようにして。小柄な彼女だったからこそ可能だった芸当だろう。
(あ、初めて小さいのが役に立ったかもしれません。……なんだかすごく不本意ですけど)
いまさっき煩わしく思ったばかりの欠点に助けられ、なんとも複雑な心境で人垣を掻き分けていく。胸にどこか釈然としないものを覚えるが、次の瞬間には役に立ったのならそれでいいだろうと開き直る。
が、いくら隙間を通り抜けるとはいってもこの厚い人の壁を越えるのは小柄で華奢――ただし、スタイル自体は悪くない――な彼女にはかなりの重労働に他ならなかった。強引に通ろうとした際に向けられる、いかにも迷惑そうな視線も生真面目な彼女には少し堪えた。
しかし、その程度で音を上げるサラではない。彼女は逆境ならなおさら強く燃え上がるタイプだ。すべてを突破するには相当の労力を費やしてしまったが、果たして騒動の中心点に辿り着く。
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