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その話というのもそう難しいものではなく、掻い摘んで言えば、エリートである魔法行使者の中でもさらに選りすぐりの揃うこのセントラルには、そうした一般論に準ずるような生徒が毎年かなりの確率で現れるということだった。すなわち良く言うなら自信に溢れ、悪く言うなら傲岸不遜な輩が。
懸案されているのはその先だ。つまるところまだお互いの実力を知らない内に、自分こそが一番だと考えている者同士が運悪く出くわしてしまったら果たしてどうなるかということだ。それが毎年危惧されているという事項だった。
いま明らかに険悪なムードを漂わせている生徒たちもおそらくはそういった手合いだろう。これも生まれながらにして戦いの宿命を背負う魔法行使者たる所以(ゆえん)か、彼らの中には血の気の多い者もまた多いのだ。
簡単に言えば――喧嘩だ。それも、おそらくもっとも質(たち)の悪い類の。なにせ対峙しているのは人の身でありながら人を超える力を行使し得る存在なのだから。
「こ、これ……さすがにまずくないか?」
サラの背後で、ふとそんな声が小さく漏れた。若干引きつった声音が事態の切迫さを的確に表している。わざわざ耳を澄ますまでもなく、周囲にも同じような囁きがあっという間に伝播(でんぱ)していくのがわかった。
(……同感です)
内心呻くような思いでサラは息を呑んだ。見れば、一人の生徒が掌の上に炎を点(とも)している。人間の頭部ほどはあろうかという、大きな火の玉だ。
火属性が初級魔法――火焔(ほむら)。
体内で生成された火の魔力を具現し、球体にとどめることで完成されるそれは紛れもなく本物の魔法だった。燃え盛る火球が蓄える莫大な熱量は離れた位置にいるサラの元にさえ届き、頬に一筋の汗を流させた。もっとも、半分は緊張による冷たい汗だったのだが。
喧嘩の域をとうに越えつつあるのは誰の目にも明らかだった。
彼が発動しているのは魔法の中でも最下位――魔法はその威力や修得難易度などの基準から四つの段階に分けられている――に属する初級魔法だが、火属性の魔法には総じて威力に優れるものが多いという特徴がある。彼がいまにも放たんとしているそれも例外に漏れることはない。下手をすれば冗談でなく死人が出かねない。
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