◆出逢いの風

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  「なんだお前……なにが情けないって?」  手の上で灼熱を踊らす少年が訊ねた。怒りを孕んだ、低い声だ。その問いに対する金髪の少年の返答は――失笑。 「はっ、情けねえだろうが。そんなみみっちい炎でなにができる? ガキの喧嘩じゃあるまいしよ。……いや、こんな場所で馬鹿やらかしてる時点で充分にガキか」  呆れ顔を隠すこともせず、平然と彼はそう告げた。その場の空気が一瞬で凍る。サラも愕然と立ち尽くすしかなかった。 (ど、どうしてそんな挑発するようなことを……!)  あの火球が蓄える熱量は間違っても子供の喧嘩程度でお目にかかることなどできはしない。まだ入学前とはいえ、彼とてセントラルに所属することとなるエリートなのだ。現時点での実力だって決して低くはない。なにが、とは敢えて言わないが、この場で起こし得ることなんて山ほどあるのだ。  おそらく喧嘩を諫めようとしているらしいことは微妙に伝わってこないでもないのだが、それにしたって言い方というものがある。 「なんだと……?」  案の定と言うべきか、少年の顔がますます険しさを増した。おそらくは自信があったのだろう火の魔法を侮辱されたことで身体が怒りに打ち震えている。  金色の少年は笑う。まるで嘲るような、ひどく愉悦に満ちた笑みだった。 「俺らはどこまでいっても武芸者だ。力を試す機会に飢える気持ちもわかるし、自分が一番だって自信を持ちたいってのもわかる。けど、実力が伴わねえ自信ほど情けないもんもねえよな」
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