◆出逢いの風

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   その一言が決定打となった。少年が怒りに目を剥く。 「てめえ! だったら確かめてみるか? 俺の炎が本当にみみっちいかどうかをな!」  感情のままに吼え叫び、少年が炎を宿した右手を振りかぶる。その場の誰もが最悪のシナリオを思い描いて青ざめる中、しかし金色(こんじき)はむしろ嬉々として笑った。まるでこの展開を望んでいたかのように口角を吊り上げる。 「へっ、いいぜ? 来いよ。身の程ってもんをその身体に叩き込んでやるから感謝しやがれ!」  おちょくるように手招きする。彼の目の前ではすでに魔法が展開されているにも関わらず避けようともしない。それどころか迎撃のために構えようとすら彼はしなかった。  もう止められない。これ以上なく簡潔に、サラはそう思った。  ここからでは距離がありすぎる。先ほどまでなら話は別だったかもしれないが、いまはもう完全に状況が動き出してしまっている。こうなっては間に合うべくもなかった。 「危ないっ……!」  かろうじて絞り出せた自分の声がサラには妙に遠いものに感じられた。彼女を含む全員が目を覆おうとする。もはや惨事は免れられないように思えた――が、ここで再びの予想外が起こることとなった。  いままさに魔法が放たれようとしたその瞬間、サラには二人を隔てる空間が不自然に歪んだように見えた。そうしてさらに次の瞬間には一人の少年が忽然と姿を現していたのである。
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