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闇のように暗く染まった空の下、彼女は一人立ち尽くしていた。燃えるような真紅の髪を腰まで伸ばした、美しい女性だ。透き通った琥珀色の瞳でただ前だけをまっすぐに見据えている。
酷い光景だった。辺り一帯は生命の息吹きを微塵も感じさせないほどに荒れ果てており、鼻を衝(つ)く異臭は大地を濡らす鮮血が発するそれに他ならなかった。
見れば、大小様々な残骸がそこいら中に転がっている。数刻前までは力強く命の鼓動を脈打っていたはずのそれらが動くことはもう二度とない。
否が応にも吐き気を催す凄惨な有り様だったが、しかし彼女は強靭な意志の力でもってそれを押しとどめていた。
この惨劇を作り出してしまった者の一人として、そこから目を背けることは許されなかった。それは生に対する侮辱でしかない。
彼女自身も酷く薄汚れていた。漆黒の戦闘衣は所々が破れて赤い色が滲み、白い肌にも血や汚れがこびりついている。綺麗な長髪も砂塵にまみれてしまっていた。
本来ならば並ぶ者もいないというほどに美麗な人物であろうが、いまは断片的にしかそれを感じることはできない。
「これで、終わりなんだね」
小さな声でぽつりと呟く。聞き手のいない、孤独な独白だった。行き場を失った言の葉はしばし宙を彷徨(さまよ)い、やがて虚空に融けていく。
「大丈夫だよ。……大丈夫。わたしがきっと、争いのない世界を創ってみせる。あなたの分まで」
誰にともなく話し続ける。この言葉を届けたかった人は、彼女にとってなにより大切だった人はもうどこにもいないのだ。
「だから……!」
毅然と振る舞っていた彼女の瞳から、ついに涙がこぼれ落ちた。
泣きたくなんかなかった。しかし、一度溢れ出した想いはもう自分でも止めようがない。
「だから……安心してね?」
この誓いは、彼に届いただろうか。
不確かな感情を胸に抱いたまま、彼女は涙に濡れる瞳を伏せた。
恥も外聞もなく、声を出して泣き崩れる。
哀しき慟哭の果てに、救いは訪れなかった。
それは、遠く昔の記憶。
彼女の想いが、光が、後の世を照らす大きな煌めきになろうとは、この時の誰にも知る由がなかった――。
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