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「――はい。そこまでにしておいてくださいね。これ以上は他の方々のご迷惑になりますから」
「な……! お前、どこから……?」
にこやかに笑う少年を見るなり、魔法を放たんとしていた生徒は一気に顔を引きつらせた。無理もない。サラを始めとした大部分の生徒も同じような表情だ。まるで信じられないものでも見るかのような目で彼を凝視する。
男子にしては髪の長い少年だった。肩にかかる程度の、黒い髪だ。紫水晶を思わせる綺麗な瞳が収まった優しい目や、線の細い身体付きなども相俟ってどこか中性的な容姿をしている。男子用の制服を着ているからには男で間違いないのだろうが、そうでなければ女性と言われても違和感なく信じられそうだった。
その一方、紳士的な微笑みもまたとても印象強かった。いわく形容しがたい独特の雰囲気をその身にまとっている。あえて言葉に当て嵌めるならば〝ミステリアス〟というのが一番近い表現かもしれない。とかく不思議な魅力を持っている少年だった。
「わたしのことはひとまず置いておくとしましょう。そんなことよりもいまの事態のほうがよほど深刻です」
そう言ってくすくす笑うと、黒髪の少年は軽く自分の左手を持ち上げてみせた。その手はしっかりと業火の踊る右手――当然ながら金髪の少年と相対していた少年のもの――を押さえつけている。ここに来てようやく彼が起こり得る惨事を未然に防いでくれたのだとサラは理解した。
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