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安堵の空気が徐々に広まりつつあるのがわかる。彼の素性は知れないが、とりあえず害意のある人物でないことだけはたしからしい。大なり小なりの感謝を乗せた視線が集中する。ただし、ごく少数を除いてだ。
「……なんで止めんだよ、ロイ。せっかくいいとこだったってのに」
少数のうちの一人である金髪の少年が、恨めしげに彼――どうやらロイというらしい――を睨みつけた。あからさまに興醒めした様子。その顔に先ほどまでの輝きは見られない。
対し、ぼやきにも似たその呟きを聞き届けたロイは、これまたあからさまな態度を見せた。一度深いため息を漏らすと、呆れの色を隠そうともせずに口を開く。
「止めるに決まっているでしょう? というより、止めることが目的だったはずです。あなただって最初はそのつもりで出て行ったんじゃありませんでしたか? レオン」
問いかけの言葉。その穏やかな、しかしたしかな鋭さを内包した論調は、まるで聞き分けのない子供を諭す大人のようでもあった。
「そりゃ、そうだけどよ……」
静かな言及を受け、レオンと呼ばれた少年はばつが悪そうに頭を掻いた。しかしそれも長くは続かず、次の瞬間にはもうそれまで見せていたふてぶてしい態度へと戻っていた。どうやら開き直ったらしく、鼻を鳴らして反論する。
「はっ、悪いかよ。最初はそのつもりだったんだけどな、こいつらがあんまりだっせえことしてやがるもんだから俺が本当の喧嘩ってやつを教えてやろうと思ったんだよ。ちっぽけな炎でいい気になってるガキと、その程度で怖じ気づいてる腰抜けどもじゃ話にならねえ」
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