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さっと血の気が引くのをサラは感じた。この人は一体なんてことを言うのだろう。
見れば、せっかくややクールダウンしていた生徒たちがまた顔色を変えてしまっていた。あれだけ挑発じみたことを言われればそれも仕方ないのかもしれないが、状況は最悪だ。
彼のように腰抜けとまで言うつもりはサラにはないが、少なくとも先ほどまでは一人を除けば全員が戦意を失っている状態にあったのだ。それがいまの言葉で自尊心を刺激されたのか、再び空気が張り詰め始めている。一触即発のそれに近い。要は危険だということだ。
「……悪いに決まっているでしょう」
サラが緊張に身を固くする中、ロイが呆れたようにそう言った。空いた右手――左手はまだ喧嘩少年の手首を押さえている――を額に当て、小さく頭を振る。
「本当の喧嘩を教える? 余計な上に巨大なお世話です。前々から思ってはいましたが、あなたは馬鹿なんですか? いえ、馬鹿なんでしょう。間違いありません」
断言した。いっそ清々しいほどにきっぱりと。周囲から絶句する気配が伝わってくる。
紳士的な態度と口調を保ちながら、しかしロイの言葉の端々にはびっしり棘があった。それも多分に猛毒を有するそれ。
「……あ?」
ロイの言葉を受けたレオンの顔色が変わっていた。不機嫌そうに片眉を跳ね上げ、彼を睨みつける。底冷えするような、鋭く光る眼差しだった。自分がそれを向けられているわけでもないのにサラが身震いを禁じ得ないほどにだ。
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