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「痛えな……! おい、てめえ――」
「うっせえ」
ぞんざいな扱いに腹を立てた少年がレオンの肩に手をかけたその瞬間、音もなく拳が疾(はし)った。目にも止まらぬ速さで放たれた裏拳が少年の鼻先をしたたかに打ち据える。声もなく悶絶する少年だったが、そんな時間さえほんの僅かしか許されなかった。
右拳を振り上げたときにはもう、レオンは次の行動を起こしていた。瞬時に身体を翻し、左からの後ろ回し蹴り。遠心力の乗ったそれは脱力した少年の体躯を弾き飛ばすに充分だった。ロイに向かって少年が吹き飛んでいく。
「……本当に気が短くて困ります」
唐突な出来事に、しかしロイは慌ててはいなかった。眼前に迫る少年をしっかりと見据え、タイミングよくその腕を取る。勢いに逆らわず後方へ背負い投げた。
勢いのついたまま地面へと叩きつけられた少年はなす術もなく昏倒する。術者が意識を失ったことによって、その手に集まっていた炎が霧散していった。
「…………」
一同が言葉を失って立ち尽くす中、レオンは何事もなかったかのように悠然と歩を進めていた。二人の間を遮るものはもうなにもない。ごく近い距離で対峙する。
ロイもまた同様に澄まし顔だった。平然として立っている。静かな睨み合いが再開されていた。
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