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「ふわー……」
柔らかい朝の日差しが世界を優しく照らす中、一人の少女が聳(そび)え立つ巨大な建造物を見上げていた。綺麗な鳶色(とびいろ)の瞳が嵌め込まれた目を一杯に見開き、ぽかんと呆けている。
「…………」
そっと振り返り、周囲を見渡す。たくさんの人に溢れかえった広い敷地内をぐるり見回すと、再び元の位置に戻り、また頭上を見上げた。
「はわー……」
自分が間の抜けた顔で間の抜けた声を上げていることに気付いていないのか、彼女はもう何度目かという感嘆の声を漏らした。注視しなければわからないが、よく見ると身体が歓喜に打ち震えている。
「すっ……ごいです」
ほうと夢見がちな様子で吐息をひとつ、少女はうっとりと頬を緩ませた。喜色満面の、まるでとろけるような笑顔だった。
彼女が発した呟きは決して大きなものではなかったが、よく通る澄んだ声は近くにいた人間を何人か振り返らせた。たちまちその目が彼女に釘付けになる。
可愛らしい少女だった。癖のない髪が肩甲骨を過ぎる辺りまでまっすぐ伸びている。燃ゆるように鮮やかな真紅の長髪だった。
優しい形をした眉やくっきりとした鼻梁。ふっくらとほどよく膨らんだ薄紅色の唇に白磁の肌――ちょっとやそっとではお目にかかることのできない美少女だった。ぱっちりとした目は女性の視点から見たとしてもうらやましく感じるであろうほどに大きい。
少女の小柄な身体を包んでいるのは、黒を基調としてネクタイやラインには赤をあしらった、これまた可愛らしい制服だった。黒と赤のコントラストに、少女の白い肌と紅い髪が見事に映える。
見る人が見れば彼女がどこに在籍しているのか即座にわかるだろう。背に結わえつけられた、少女のその可憐な姿にはあまり似つかわしくない無骨な棍からもそれは明白だった。
この都市に存在する、とある教育機関の制服である。一般と比べ、極めて特異な技能を養成する、特殊施設だ。
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