セイント・ベリー・ツリー

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 レベッカ・ベルはオーブンに頭を突っ込んで死んでいた。オーブンからだらん、とぶら下がった足が左右に揺れている。何故こんなことになったのか、僕には良く分からない。狂ったと言えば話はそれまでだけど、じゃあ何が狂わせたかという話になる。それにイニスの目論見はこうなることじゃなかったはずだ。しかし、彼がいない今それを確かめる術は無い。  イニス・ノストは本当に奇妙な奴だった。背は小さくずんぐりとしていて洞窟のような目玉が特徴的だ。身体中毛むくじゃらで、皆から「コアラ」と呼ばれていた。僕が彼を心底おかしい奴だ、と思うようになったのは、そう、この前の電話がきっかけだった。その日は丁度レベッカ・ベルがこの町にやってきた日で、周囲の人々は彼女のことばかり話していた。こんな田舎町に移り住むひとなんて年に一人いればいい方だし、なにより彼女はとても魅力的だったのだ。見るものをはっとさせるような赤毛、意志の強そうな瞳、自信に満ちた動作、そしてそれらと相まって放たれている甘酸っぱい雰囲気。友達はまだ見てもいないのに彼女にすっかり惚れてしまっていた。どうやら僕の学校に来るらしいので、歓迎パーティをすることになり、一応僕も誘われたのだが丁重に断った。  
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