4人が本棚に入れています
本棚に追加
あるところに、少女がいました。
少女はどこまでも吹き抜ける青空の下の木陰で、いつもひとりでした。
木葉がカサカサと時折風に吹かれて耳を通り過ぎます。
温かい陽光に空気は穏やかで、幾重にも重なった木葉1枚1枚が少女と絵本のページを彩っていました。
「『お母さん、今日のごはんは、なぁに?』」
少女の小さな、かわいらしい口からきれいな鈴が転がるように物語が紡がれます。
「『そうね、なにがいい?』するとお父さんと女の子は顔を見合せて、にかっと笑って言うのでした。『『オムライス!!!』』」
風がざぁっと鳴って、少女の金糸の髪をさらさらと流しました。
「…そうして、家族は、いつまでも幸せ、に…」
ぽた、ぽた、と絵本に少女の流した涙が弾けました。
木陰の下にいる少女に夕陽がかかりはじめました。
少女の背後にはそびえたつ廃墟がありました。
人ひとり、猫一匹いない街はずれに少女はたった一人でいたのでした。
**************************
最初のコメントを投稿しよう!