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『うう…』
ふいに拓哉のうめき声が響いた。
晴海は涙をためた目を向ける。
あの歪んだ表情は消えていた。
悲しげに沢山の涙を流す拓哉。
『…晴海、ハルミ』
思い出してくれてる。
拓哉が、あのときの事を。
『お願いだ、これ以上晴海を傷つける前に』
拓哉は先輩に懇願する。
先輩は黙ったまま頷くと、その額に手を添えた。
拓哉の姿が薄れていく。
『晴海』
名前を呼ばれて、晴海はじっと拓哉を見た。
『また、いつか』
あのときの優しい笑みに胸の感情が溢れ出す。
「また、ね」
涙でぐしゃぐしゃな顔を無理やり笑顔にしながら、晴海は優しく別れを告げた。
先輩の柏手の音が響く。
拓哉は夕闇に紛れるようにその姿を消した。
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