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ったくよ、どいつもこいつも泣くんじゃねえよ。
端から見りゃ、ヤクザとチンピラが、姉妹とその子供を脅してるみてえだろ。
景子姐さんもシンジの女も泣きながら笑った。
沙弥香だけは涙を手で拭いていた。
「吟ちゃん、強くなったね。あんなに泣き虫だったのに、今は逆だね」
「えっ?兄ぃ、泣き虫だったんすか?
うるせえよ。
シンジの頭を叩きながら姐さんに言った。
上野から部屋のカギあずかった。姐さんに渡しておくよ。
明日、午前中に行く。
上野の部屋の方に迎えに行くから。
そう言うと俺は席を立った。
面会室に姐さんと沙弥香と一緒に入った。
しばらくすると上野が来た。
上野が何か言う前に口を開いた。
組のことも、オヤジのことも心配ないから、自分のことだけ考えて後悔しねえようにな、兄さん。
それだけ言うと、俺は姐さんと子供を残して面会室を出た。
規定時間が過ぎて、姐さんと沙弥香は面会室から出てきた。
俺とは何も話さなかった。
俺も何も聞かなかった。
警察署を出て姐さんは口を開いた。
「吟ちゃん、私、あの人を待ってる。
沙弥香が…ママ、パパ帰って来るの一緒に待とうって…。
沙弥香と話して、決心ついたよ。よかった。今、沙弥香と話しておいて。」
そうか…。
それだけの会話だった。
翌日、俺は他の人間と姐さんに頼んでひとりで面会に行かせてもらった。
「吟、ありがとな。
沙弥香がな…パパ、待ってるってよ…」
そうか。パパのこと好きなんだな。
「吟、俺は…ヤクザという生き方してきた。でも、今、その生き方に迷ってる。」
迷うことねえよ。
「なに?」
カタギになれよ、兄さん。
そして姐さんと娘と幸せになりなよ。
「なんだと?」
ヤクザってのはな、親分だけを見てりゃ道に迷うことはねぇんだ。
それを迷うなら、ヤクザやめちまえよ。
「吟、てめえ!」
なんだよ、俺の言ってることは、ヤクザとしておかしな事か?
「吟歌!!…てめぇ!」
兄さん!
8年前、あの大雪の日の居酒屋のことを!
俺はよく憶えてる。
「!!…」
兄さんなら、その意味解るだろ。
そう言って面会室を後にした。
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