第2章 愛するということ

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--------------- 兄さん、沙織さんは命が限られてんだろ! もうすぐ居なくなっちゃうんだろ! あんた何言ってんだよ! 「吟、お前は俺がヤクザとして間違ってるとでも言いたいのか?」 意味わかんねぇよ! --------------- 警察署から出て街をぶらついた。 8年前のあの日のことが甦った。 兄さん、あの時、ホントは誰よりも辛かったんだろ。 あれは俺に言った言葉じゃなく、ホントは自分自身にむけた言葉だったんだろ。 8年過ぎて、俺にはやっと理解できたよ。あの時の兄さんの気持ちがさ。 今の兄さんは、あの時の俺だ。だから…自分のことのように、痛いくらい気持ちがわかる。 初代が言ってことも、ようやく分かったよ。 「黙って痛みを分け合う。黙って一緒に泣いてやる。それがヤクザというものだ」 兄さん、俺が一緒に泣いてやる。俺にはその痛みが解るから。 辞めるも、辞めないも兄さんが決めることだ。 てめぇの人生決めるのは自分自身だ。 心の中でそう言った。 上野は刑務所に戻った。 約6年の刑期だった。 景子姐さんと娘の言葉を振りきり、弁護士をとおして離婚届けを送りつけてきた上野は、姐さんと娘の面会と手紙の受けとりを一切拒否した。 そして刑務所に落ちて行った。 同じ時期、本部長の加納(仮名)がパクられた。 覚醒剤取り締まり法違犯。 所持、使用、譲り渡し、営利目的。 さらに、恐喝で再逮捕をくらった。 面会に行った時、加納は言った。 「吟、今度は長くなる。俺が教えたこと、しっかり憶えてるか?」 はい 「そうか。なら安心だな。後のこと頼む。オヤジのこと頼む。負けるなよ、吟」 本部長、何、お別れみたいなこと言ってるんですか。待ってますから、本部長こそ負けないで下さいよ。 俺は、この時の加納の決心を知るよしもなかった。 その翌日、加納は警察と家族の説得で、引退と加納組の解散を決めた。 俺が本部長補佐になってからの約2年間、加納は俺に本部長としての役割と仕事を、手取り足取りおしえてくれた。 シャブの影響で、時々とんちんかんな事を言ったりしたが、いつも俺の味方をしてくれたのも加納だった。 俺はそんな加納が好きだった。 俺は加納と上野。 二人の最大の理解者を同時期に失った。
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