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限りある命
モトは眠っている。
意識が戻るのはトイレと数時間だけ…それでもモトは歯を磨き顔を拭いていつもの日常から可能な限り繋っている。
「ノリさん。天井に。ほら!でかパンさんが飛んでるよ。」
天井を指差そうとするけど真直ぐ上らず震える。
モトの体はいつの間にか骨と皮だけになっていた。
人の皮があんなに哀しく広い物だと思いもしなかった。
「ノリさん。お願いがある。私が死んだらストーマや点滴はノリさんが外してね。誰にも見せたくないねん。」
「それと紙おむつは止めて!必ずトイレには頑張って行くから見えなくなっても、手を引いて!必ず立って行くから!」
「もしトイレで倒れても起こして立ち上がらせて」
シリンジポンプのモルヒネと点滴ポンプの音だけが真夜中に響いている。
8月半ば
義理姉(夏休みで帰省した)と僕が交代で徹夜で付き添っていた。
今やから書けると思う。
僕はモトを
「死なせてあげたい」
と思い続けた。
辞めさせてあげたかった。
頑張る事を。
ちっともモルヒネなんかで延命したってモトの体はダンダン小さくなっていくだけじゃないか。
モトをそんなに生かせていいのかな。
今・明日死地におもむく愛する人をただ ジッと見つめ続けることは… 《つらいよ》
辛すぎて何回も嘔吐する
でもモトが諦めない以上僕はそこに居続ける。
限りある命だからこそモトは最大級の情愛の炎を燃やし続けれたのだから
死なせてあげたいほどに僕はモトを愛していた。
ターミナル患者は痛みをリアルでこそ感じなくともメンタルで拾いあげる。
肝臓を破壊され黄疸の黄色い瞳から涙は流れる。
止める事など出来ないよ
あの日モトが病室でベッドから座りなおしガウンを脱ぎかける。
診察と勘違いしている。真夜中3時。
「ハイ先生痛みはあま……あっ!ノリさ…ん?ノリさんだ…ねぇ。おかえ…り。」
「旦那の…顔忘れたらもう…お終いやん…ね。」
血液のアンモニアが脳に入り込んだんだ。
8月19日 昏睡状態
僕の顔を忘れても僕が必ずモトを見つけてあげます。
何処に行ってもね。
どこに逝ってもね。
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