僕はこの瞳で嘘をつく

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「……待て待て待て。おつけつ、イヤ落ち着け俺。 クールになれ。一旦整理しよう。」 なんとか気持ちを落ち着かせようと、数回深呼吸をしてみる。そして不安を掻き消すように一人で喋り続ける。 「俺は……魔王と戦って……そう、確かに倒した。 けどヤツは何か最後に言ってたな……呪いをかけた、とか?」 もう一度自分の体をアチコチ見てみる。間違いなく人間ではなくなっている。 泉に映る己の姿。 アベルはこの「魔物」をよく知っていた。 「グレムリン」 低級な悪魔。非常にイタズラ好きで、集団で人家や畑を荒らしたりする。 手足の爪で攻撃がメインだが、火を吐く事もある。 ……冒険者が序盤で出くわす、いわゆる「ザコモンスター」である。 「……誰がザコじゃ!ちくしょー!! これがゼツの野郎が言ってた呪い??」 アベルは両手を震わせながら一人で喋り続ける。 肩も怒りで震え、それにつられてシッポがピコピコ動くのが非常に可愛いらしい。 「よりによってこんな低級悪魔にしやがって……なんて性格悪いんだ!!許せん! ……しっかし……ここは何処なんだ?」 キョロキョロ辺りを見回すがあるのは木。木。また木。 かなり木々が密集している為、先を見通す事もできない。 下手にうろついては危険だ。 幸いにも周りの木々には果物がなっているし、泉があるのだからここに居れば餓死することはない。 人が通り掛かるのを待つか? ……いやいや、自分の今の姿は魔物なのだ。 人に遭えたとて、悲鳴をあげて逃げられるか、それとも ……退治される? 一瞬よぎったイヤな考えを消してしまおうと頭を左右に振っていると、前方の茂みがガサガサと揺れだした。 (なんだ?誰か来る?人か?獣か?それとも……) アベルが思考してる間に音はどんどん近づいて、遂にその姿が彼の前に現れた――。
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