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ゼツがそう叫ぶと彼の全身から今までとは比べ物にならない魔力が放たれる。
城壁には次々と亀裂が走り、大気が震え出す。
その圧倒的な力を前にルガンとエレナは一瞬で敗北を悟った。レベルの差がありすぎる。
触れられてもいないのに見えない何かに圧される感覚。
足が激しく震えるが、なんとか気を張って態勢が崩れないようにするだけで精一杯であった。
その時。
「情けないぞお前達ぃ!!」
声のした方を振り返るとアベルが平然と歩いてくるではないか。……鼻歌のオマケつきで。
「修行が足りないからそうなるんだ!
俺を見てみ?日頃から鍛えてるから何ともないだろ?そもそもお前達はいつも俺が修行に誘っても付き合ってくれた試しがな……」
「わかったから!!後で幾らでも話は聞くから!今は魔王を倒すのが先だろうが!」
「リーダーお願いします!悔しいけど私達じゃお役に立てそうにない。……まぁ一番何が悔しいってリーダーに頼る事なんですけどね」
ルガンとエレナは苦しそうに顔を歪めながら人類の最後の砦に希望を託す。
勇者アベルに。
「……何か最後の方で深く傷付いたがまぁいい。あとは俺に任せてその辺でお茶でもしてろ!!」
アベルは剣を胸の前で構えるとゆっくり目を閉じた。
「我が魂を代価に。
今こそ覇皇の力を我が身に与え給え」
そう言い終わると同時に剣が激しく輝きだし、やがてその光はアベルの全身を包みこんだ。
「ふむ……興味深い力だ。今のお前とならいい戦いになる」
ゼツは静かに呟くと嬉しそうに笑う。がその瞳は狂気に満ちている。
同時に更に魔力が膨れ上がり、床に放射状に亀裂が走る。
「余裕こいていられるのも今のうちだ。
さぁ魔王よ、この伝説の聖剣ルシファリオンでその体をバラバラに斬り刻んで、更に肉の一片遺らず燃やし尽くしてやるから覚悟しろ!!フハハハ!!」
「……なんかリーダーの方が悪役みたいですね」
神々しい光に包まれながらも不気味な笑みを浮かべ、およそ勇者とは思えない発言をするアベルに半ば呆れた様子でエレナが呟く。
「うっさい。君達は黙ってみてなさい。
さぁ!!行くぞ魔王ゼツ!!」
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