始まりはいつも雨

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「はぁっはぁっ……っ! いい加減に消え失せろぉ!」 魔術を連続で使い続けた事による疲労と中々アベルを仕留められない苛立ち。 言葉を荒げながら放たれた特大の炎弾は冷静さを欠いていた事もあり、難無くアベルにかわされてしまう。 魔術を放った直後、ほんの一瞬であった。 ゼツの膝から力が抜け、バランスをわずかに崩す。 アベルは見逃さなかった。 長き戦いの果てでついに見つけた勝機。 「はあぁぁぁぁっ!!」 体に残った気力をかき集め最後の攻撃を仕掛ける。 光を放ちながら素晴らしい速さでゼツとの距離を詰める。 「!そうはさせぬ!!」 己を両断する為に眼前に迫ったアベルに最後の一撃を見舞う為、両腕を前に突き出すゼツ。 が。 「遅いっ!!」 アベルの声が聞こえたかと思うとゼツの両腕が主より離れて宙を舞った。 鮮血を吹出しながら。 「なん……だと?」 ゼツは己の行動を後悔する事になる。 反射的であったが自分の腕が宙に舞うのを目で追ってしまった事。 そして……アベルから目を離してしまった事。 すぐさまアベルに視線を戻した時には全てが遅かったのだ。 何故なら、アベルはゼツに留めをさすべく刃を向けていたのだから。……ゼツの心臓へ。 「これで全て終わらせる!!」 聖剣ルシファリオンは今まででもっとも強く光を放ち始める。そこに突然太陽が産まれたかの様に激しく、熱く。 そして突き出されたその刃は遂に魔王ゼツの体を貫いた。 全身が灼熱で焼かれるような激しい痛みに襲われ、口に溢れる鉄の味を外に吐き出す。 ゼツは理解した。自分は負けた。このまま確実に死ぬだろう。だが、恐怖はない。 不様に断末魔をあげる事もしない。 だが。 このまま終わらせはしない。 ゼツの瞳に再び光が灯る。 「ふふふ……見事。私の負けだ。だが!魔を統べる者として貴様をこのまま生かしておくわけにはいかぬ。」 「見苦しいぞ魔王。俺を道連れに自爆でもする気か?」 満身創痍の魔王を見下ろして馬鹿にするかのようにアベルが吐き捨てる。 魔族の王にプライドはないのかと。 「私を見くびるなよ……そんな安い手段は選ばぬ。あっさり死んでもらっては困るのでな。 ……………貴様に呪いをかけてやる」
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