僕はこの瞳で嘘をつく

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――夢を見た。 自分は世界を救う勇者になって仲間達と世界中を旅する。 数え切れないくらいの危機を乗り越え、幾度となく襲い来る魔物達をひたすら斬りつづけ、ある男の元を目指す。 旅の途中、何度もくじけそうになった。 何故自分なのか、自分がやれるのか。 ……逃げ出したくなった時、仲間がいつも支えてくれた。 魔王を倒して世界に平和を。 人々に再び笑顔を。 その思いを胸に遂にやり遂げたのだ。 ……そうだ。夢じゃない。俺は本当に魔王を倒して……その後……どうなった? 頭がズキズキ痛む。ぼやけた視界で周りを見回すと、どうやら目の前に泉がある。 「……顔でも洗おうかな」 とりあえずこのボンヤリした感じを何とかしようと、体を起こす。 立ち上がってみて気づいたが、周囲の木々や草花が随分大きい気がする。 まぁ、そんな事もあるだろうと大して気にも留めず泉の淵までやって来た。 泉は透明度が高く、かなり深いだろうに底まで見える程だった。 天気がよいせいもあって青い空や白い雲も水面に映りこんでとても綺麗だ。 ぐいと泉に顔を近づけると自然と微笑んでいる自分の顔が現れ………なかった。 正確には自分の顔ではない。というよりも。頭には二本の角。大きくクリクリの紅い目。口には可愛いキバ。 「……え?」 顔を両手でペタペタと触ってみる。 水面に映るモノも同じように顔を触っている。 頬をつねってみる。 ……痛い。 「……えぇ?」 自分の両手を見下ろすと犬か猫のような肉球。そして爪が生えている。 全身の肌の色は紫。 違和感を感じたお尻を見てみると何とシッポがピコピコと動いている。 ぼんやりしていた頭はイヤでもハッキリしてきている。 ……有り得ない。 なんだ? なんだコレ。 なんで? なんで俺が…… 「魔物」 になってるの?? 「何じゃこりゃあぁぁぁ!!」 アベルの叫びは天へと響き渡り虚しく消えて行った……
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