平和との別れ

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俺には親がいない。 幼い頃の記憶もない。 今でも思い出せる一番古い過去 独りでこの家の前で座っていた。 それだけしか思いだせない。 実際、自分の歳すら本当は知らない。 親戚だと名乗り出た老人の言う通りに生活した。 不自由もしていなかったので、本当に親戚なのかどうかなんてどうでもいい事のように思えて…… 俺は老人の存在を受け入れた。 本当に良くしてくれて、父親がいたらこんな感じかなって思うこともあった。 ━━その老人は、今はもういない。 絶対、帰らない。 老人は、俺に向かって最後にこう告げた。 『この家で暮らしなさい。 寂しい思いをしたなら、 友達をつくりなさい。 お前は普通の男の子だよ。 普通なんだ。』 当たり前の事を言っている。 当時の俺は、そう思っていた。 しかし、今なら解る。 何故、そんな言葉を残したのかが。
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