宮大工の話①

1/3
2182人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ

宮大工の話①

俺が宮大工見習いをしてた時の話。 だいぶ仕事を覚えてきた時分、普段は誰も居ない山奥の古神社の修繕をする仕事が入った。 だが親方や兄弟子は同時期に入ってきた地元の大神社の修繕で手が回らない。 「おめぇ、一人でやってみろや」 親方に言われ、俺は勇んで古神社に出掛けた。 そこは神社とはいえ、小屋提程度のお堂しかなく年に数回ほど管理している麓の神社の神主さんが来て掃除する位。 未舗装路を20km程も入り込んで、更に結構長い階段を上って行かねばならない。 俺は兄弟子に手伝ってもらい、道具と材料を運ぶのに数回往復する羽目になった。 そのお堂は酷く雨漏りしており、また床も腐りかけで酷い状態だった。 予算と照らし合わせても中々難しい仕事である。 しかし俺は初めて任せられた仕事に気合入りまくりで、まずは決められた挨拶の儀式をし、親方から預かった図面を元に作業に掛かった。 この神社はオオカミ様の神社で、鳥居の前には狛犬ではなくオオカミ様の燈篭が置いてある。 俺は鳥居を潜る度に両脇のオオカミ様に一礼する様にしていた。 約一ヶ月経過し、お堂がほぼカタチになってきた。 我ながらかなり良い出来栄えで、様子を見に来た親方にも「なかなかの仕事が出来ているな」と褒めてもらった。 それで更に気合が入り、俺は早朝から暗くなるまで必死で頑張った。 ある日、内部の施工に夢中になりハッと気付くと夜の10時を過ぎていて帰るのも面倒になってしまった。 腹が減ってはいるが、「まあいいか」と思い「オオカミ様、一晩ご厄介になります。」とお辞儀をしてお堂の隅に緩衝材で包まって寝てしまった。 どれくらい眠っただろうか。 妙に明るい光に「ん...もう朝か?」と思って目を開けると目の前に誰か座っている。 あれ?と思い身体を起こすと日の光でも投降機の光でもなく、大きな松明がお堂の中にあり、その炎の明るさだった。 そして、明るさに目が慣れた頃に目の前に座っていたのは艶やかな長い髪の巫女さんだった。 「○○様、日々のご普請ご苦労様です」 鈴の鳴るような澄んだ声が聞こえると共に、彼女は深々とお辞儀をした。 「ホウエ?」俺は状況が飲み込めず間抜けな声を返しながら、お辞儀でさらっと流れた黒髪に見惚れてしまった。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!