宮大工の話③

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宮は神主さんによって良く清掃されており、保守と言っても各板の嵌め合わおせがおかしくなってないか、どこか浮いてきている所がないかなど、殆どすることも無く基本的な点検だけで終わった。 最後に綺麗に清掃し、お堂の中に銀マットと寝袋を敷き、簡単に食事を済ませた。 そして午後九時を回ったので、「さて、鬼が出るか蛇が出るか...」と不謹慎な言葉を呟き、俺は耳飾の入った化粧箱を握り締めながら寝袋に包まり投光機の電源を落とした。 ・・・しかし結局何も出ず朝を向かえてしまった。 化粧箱も握り締めたまま。 あれええ?と思いつつもまあ一晩目だからなあ、と思い起き上がる。 なんか頬っぺたが痛いのは床に何度か打ちつけたせいだろうか? 寝袋をたたみ、とりあえず外に出て大きく伸びをしていると神主さんが階段を上ってきた。 「おはようございます、早いですね」 「おはようございます、いやあやはり気になってしまって...うわっ!なんですかその頬っぺたは!」 「え?」 「こりゃすごい...呪文の準備までしてたとは思いませんでした...」 「はぁ?一体何を言ってるんですか?」 「そりゃこっちのセリフです。頬っぺたに古代文字を書き込むなんて凝ってますねぇ。どうやって書いたんですか?っていうか、そりゃもしかして血じゃないんですか!?」 俺は急いで鏡を取り出して自分の顔を映し、絶句してしまった。 左右の頬っぺたに古代文字のような物が書かれている。 しかも、おそらく鋭利な物で書かれたらしく、俺の血そのもので書かれているのだ。 だが、普通なら眠っているうちに血文字など崩れそうなモノだが、はっきり文字と解る形で残っている。 とりあえず顔を洗ってみると、血は取れたが薄っすらと古代文字のカタチにキズが残っていた。 「!」俺はふと思い立ち、勾玉の耳飾が入っている化粧箱を見た。開けた形跡は無い。 そっと振ってみる。 何か入っているが、明らかに勾玉とは違う物の様だ。 俺は化粧箱の包装を解いて、開けてみた。 そこには勾玉の耳飾は無く、代わりに長さ五寸は有る白い牙が入っていた。 二人してしばらく絶句していたが、ふっと神主さんが微笑んだ。 「おそらく、もうこれで問題無く蛇神様の奥宮の修繕は出来るでしょう。あなたがこの牙を持って工事に当たれば。」 「・・・そうでしょうか?」
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